診断基準と解説

オスラー病(HHT)とは

オスラー病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)
(HHTは、hereditary hemorrhagic telangiectasiaの略)

この病気は全身の血管に異常が起こり、出血傾向の出る常染色体優勢の遺伝性の疾患です。
特徴は、繰り返す鼻出血、毛細血管の拡張、血管奇形が肺、脳・脊髄、消化管、肝臓などに、家族に同様の症状があることなどです。
男女差はなく、1万人以上の患者が潜在的にいると考えられており頻度は低いですが、非常に稀な病気はありません。

きちんとした「診断基準」があります

①繰り返す鼻血
②皮膚や粘膜の毛細血管拡張(唇・口腔・指・鼻が特徴的で、他にも眼球結膜や耳など)
③肺・脳・肝臓・脊髄・消化管の「動静脈瘻(動静脈奇形)」
④一親等以内に患者がいる(可能性が有る)

以上の4項目の内、3つ以上有ると確診、2つ以上で疑診、1つだけでは可能性が低いとされます。

子供の場合、症状を呈するのに時間がかかる場合もあり、2つの項目でも注意して観察します。

逆にHHTの御家族で鼻血があるだけで、HHTと診断するのは間違いです。
鼻血の量や回数の定義はありません。
子供では、普通でもよく鼻血が出ることも考慮する必要があります。

この病気が難治性であることは事実ですが、早期に適切な診断を受けることにより、重篤な症状を回避できる可能性がある病気です。
診断基準に該当する可能性のある方は、早期に専門医を受診してください。

なお、HHTと診断された方は、ご家族にもお話しをされ、ご両親やご兄弟もスクリーニング検査を早期に受けられることを推奨します。

これにより重篤な症状が発症する前にコントロールできる可能性が有ります。


診断基準について

この診断基準は、 Curacao criteriaとも呼ばれ、HHTのカンファレンスがベネズエラの北部のカリブ海のCuracao島で行なわれ、そこで決められたため、そのようにも呼ばれます。
上記の遺伝子診断が可能な時代になってきましたが、遺伝子座の多様性や臨床への応用の困難さから、今でも上の4項目で診断がなされます。
遺伝子検査の結果とこの臨床診断はかなり相関しており、臨床診断の信頼性の高さを示しています。

鼻粘膜からの出血で鼻出血が、消化管からの出血で下血が起こります。出血は、子供よりも大人に多く、特に消化管出血は、年齢が上がってから、50歳以降に多いとされていますが、もちろん例外もあります。鼻出血は、HHTの90%の患者さんに認められます。
毛細血管の拡張は、思春期以降に気付かれる事が多いとされています。
女性では閉経後、鼻出血が改善することがあります。


皮膚病変は、顔面、口唇、舌、耳、結膜、体幹、四肢、手、指などに認められます。
粘膜病変からのほうが、皮膚病変より出血しやすいとされております。反復する鼻出血nose bleedingが良く認められます。
その程度は、軽症から、輸血が必要なまでのものもあります。
同じ御家族でも程度の差はあります。
消化管・呼吸器・尿路(稀です)からの出血も起こることがあります。
消化管出血の原因になる血管病変は、バリウム検査では、突出や陥没した病変がないため、検出困難であり、内視鏡をしなければ発見できません.内視鏡検査を行なっても胃炎と無視されることもありますので要注意です.消化管出血は、潰瘍のように吐血・下血の形をとらず、普段から少しずつ出血しており、検査をすると、高度の慢性貧血のことがあります.鉄欠乏性貧血になるため鉄剤を服用することがあります。

動静脈瘻(ろう)(arteriovenous fistula)とは、動脈と静脈が直接、短絡している状態で、その移行部やその末梢の静脈が大きく拡張している場合もあります。(静脈瘤varixといいます)
肺の動静脈瘻があれば、酸素化が悪いために、全身倦怠・呼吸不全・チアノーゼ、さらに喀血などを起こすことがあります。

また、肝臓や中枢神経系(脳・脊髄)でも同様に動静脈瘻が認められることがあります。
動静脈瘻が大きいと心不全を起こす場合もあります。(特に、肝臓に動静脈瘻がある場合)
HHTの患者さんの50%に、肺、脳、肝臓の少なくとも一つに病変があるとされています。

脳症状には、脳出血と脳梗塞があり、前者は脳動静脈瘻arteriovenous fistula (AVF)・脳動静脈奇形(AVM)や動脈瘤が原因で起こり、後者は肺の動静脈瘻からの塞栓症のために起こるのが原因です。
また、脳膿瘍(脳に膿が溜まる病気です)も後者で起こることがあります。
脳の血管奇形は、HHTの患者さんの10-20%に認められ、動脈と静脈が直接つながる動静脈瘻(AVF)の形をとったり、ナイダス nidusと呼ばれる異常血管構造が介在する場合があります。
後者の場合、大きさにより1 cm以下であればマイクロ血管奇形micro-AVMと呼ぶ場合があり、1cm以上の大きさの病変と区別されます。大きさが、1cm以下であれば出血する可能性は高くないこと、またMR検査で検出できいない場合もあります.逆に1cm以上の病変(nidus typeAVM)は、出血する可能性が高く、MR検査で必ず検出可能です。
小さな病変は、出血しにくいため治療の対象とはせずに、経過観察されることが多いです。
脳の動静脈瘻・動静脈奇形は、多発性の場合もあります。
肺の病変と同じように、ある時点で脳病変がなければ、新たにできることはないと考えられています。(本当にそうかは分かっていませんが)またHHTの患者さんには、頭痛が多いとされています。脳の動静脈瘻・動静脈奇形の治療は、簡単ではありません。
脳神経外科の中でも治療の難しい病気とされています。治療方法は、外科的摘出術、血管内治療、定位放射線治療があります。
定位放射線治療は、病変に高線量の放射線を照射する治療で、ガンマナイフやリニアックナイフ、サイバーナイフなどと呼ばれる方法があります。
HHTの患者さんの場合、多発例も多く、この場合には、すべて外科的にとることは非現実的ですし、1cm以下のmicroAVMの場合は、出血率が低いと考えられており、注意深い経過観察がされることが多いです。
脳梗塞の原因が肺の動静脈瘻であるにも関わらず、そのような診断されずに、一般的な脳梗塞予防の薬である抗血小板薬(アスピリンが多いです)や抗凝固薬が、投与されると消化管出血を悪化させる場合があり、重篤な貧血になる場合もあります。


皮膚病変は、レーザー治療などが行われることがあります。
電気凝固は奨められないとされています.他、ホルモン療法、止血剤の投与、軟膏の塗布なども行なわれますが、決め手に欠くのが現状です。
鼻出血で出血が止まらない場合には、血管内治療として塞栓術を行う場合がありますが、粘膜病変が消えるわけではないので、その効果は一過性です。
どうしても治療に抵抗する鼻出血に対しては、形成外科医・耳鼻科医により、粘膜病変を切除し、大腿からの植皮を行うことがあります。(サンダース法)
その適応は、鼻出血のため輸血治療を頻繁に必要としている場合で、通常この治療が行われることはありません。
この植皮にまた血管病変が起こったり、植皮でカバーできない部位からの出血が起こり、数年で再発することがあります。
また、粘膜病変を保護する目的で、外鼻孔(鼻の孔)を外科的に閉鎖することもあります。


肺の動静脈瘻は、HHTの患者さんの約30%に認められ、逆に肺の動静脈瘻があれば、その90%が、HHTと考えられています。(論文によってそのデータはまちまちですが)
つまり肺の動静脈瘻があれば、HHTの可能性が非常に高いということになります。
血管構造が単純なsimple type (80%)と複雑なcomplex type (20%)に分ける場合があります。
肺の下葉に病変があることが多いです。病変を栄養する動脈の栄養血管の太さが、3mm以上あると治療の適応があるとされています。
つまり大きなシャントがあると、そこを血栓や細菌が通り抜けやすいため閉塞した方が良いとされています。(理論的には3mmよりも小さな栄養血管の場合も、血栓や細菌が通過することがあると思います。実際、そのような患者さんもおられました)
以前は外科的治療も行われていましたが、現在は血管内治療(外科的治療とことなり、カテーテルを用いた非侵襲的な治療)が行われています。
これは、シャント部位、またはその手前の動脈を、プラチナ製の柔らかいコイルで閉塞します.
胸を開ける外科的治療を必要とせず、局所麻酔で治療可能です。また場合によっては(再発などがあれば)再治療の可能です.
栄養血管の太さが10mm以上ある大きな動静脈瘻の場合には、コイルの逸脱(シャント部位を抜けて肺静脈側、ひいては体循環の動脈側に移動してしまいます)などの合併症の可能性が高くなるため、外科的治療が選択されることもあり、最近は内視鏡下で低侵襲手術が行われます.肺の動静脈瘻があれば、歯の治療(抜歯など)、外傷や他の外科的治療を行なう場合、抗生物質の投与を必要とします。
また、この病気のある患者さんに点滴を行うときには、空気が入らないように細心の注意が必要です。
空気が、脳に飛んでいけば空気塞栓症を起こす可能性があるからです。
HHTは、家族性に発症するため家族のメンバーの一人が診断されると、文字どおり芋づる式に家族内に病変をもつ患者さんが診断されます。
HHTの10%の患者さんが、動静脈瘻・奇形のために、脳出血・脳梗塞や脳膿瘍を起こし、若年で死亡したり、大きな障害を持つことになります。
この人たちは症状を出す前に、診断されると、病変によっては予防的治療が可能になります。
そのようなスクリーニングの診断をする・しないは、個人が決めれば言い訳ですが(最終的に決めるのは医師ではなく、患者さん自身です)、予防可能な病変の検出が可能であることを、医師はきちんと説明するべきであり、説明を受けた患者さんは、親族にそのような可能性を知らせてあげるべきであると思います。
私の患者さんの一人とのお話しの中でHHTは必ず遺伝する病気で、「孫子に申し訳ない」と落ち込んでおられた方がおられました.確かに優性遺伝するため御家族に同じ病気が発症する可能性は高い(50%)のですが、「そう考えるよりも、発病する前に診断して、予防できる病変に対しては治療が可能な病気です.前向きに考えましょう」と、その患者さんとは、お話をしました。


HHTは、重症の合併症を起こすことがあるのですが、これらの多くが予防可能な疾患です。
治療を強要することはしませんが、重症の症状を呈する前に、治療することを強く御奨めします。

スクリーニングの診断:肺の動静脈瘻の検査は、超音波検査でシャントの存在を確認したり、CT検査で直接病変の検出を行います。
この際、肺は周囲に空気がありコントラストが大きいため造影剤は通常不要です。
いきなり血管撮影や造影のCT検査が必要と勘違いをしている医師も多いので要注意です。
CT検査は、薄いスライス厚で検査を行えば、詳しい解剖学的構造が分かります。
肝臓の動静脈瘻まで同時にCT検査を行なう時には、造影のCT検査を行なった方が診断的価値が高く、後者を一回で行なう方が良いと最近は考えています。
脳や脊髄の血管病変の検査は、MR検査を行います。
肝心なことは、この病気のことのわかった医師(この病気の名前は知っていても、実際、わかっていない医師が大半です.呼吸器内科の医師ですら、肺癌はよく知っていても、HHT関連の肺疾患は知らないことが多いです)に診てもらうことでしょう。
肺の病変(呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科)、脳・脊髄の病変(脳神経外科)、鼻出血(耳鼻咽喉科)、消化管出血(消化器内科)、皮膚病変(皮膚科・形成外科)、遺伝性疾患(遺伝のカウンセリングのできる科)などと多くの科が関与しますが、全体をまとめる医師が必要で、まさにチームプレイが必要ということになります。
患者さんは、「しんどいから」内科を訪ね、子供が半身麻痺になり小児科を訪ね、鼻血が出るから耳鼻科を訪ねます。
肺の動静脈瘻の診断をしても、HHTのことを念頭に置かなければ、脳病変は浮かびません。
この病気を知らないと氷山の一角だけを見て、全体像がわからないまま、ただ時間だけが経ち、次に大きな症状が出て初めて診断されるようなことになります。

この文章は「小宮山雅樹先生のHPを参照させて頂きました」


オスラー病と血栓症

オスラー病の患者さんも、オスラー病以外の病気にかかることが当然あります。
その中には、非弁膜症性心房細動、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、心臓の外科的手術後、など抗血栓療法を必要とすることがあります。
この時、内服する可能性のある抗凝固薬の代表がワルファリンであり、最近は、新しい経口抗凝固薬(new oral anti-coagulant: NOACと呼ばれます)が脳出血の合併症が少ないという理由でワルファリンの代わりに服用される患者さんも増えています。
また、心臓からの塞栓症以外の脳梗塞には、抗血小板薬を内服することになります。
これには、アスピリン、プラビックス、パナルジン、シロスタゾールなどが、該当します。
また、オスラー病患者さんは、血液中の第8凝固因子が増加していて、通常よりも血栓を形成しやすい状態にあります。

[1].これに対して、特に治療の必要はないのですが、血栓性の合併症を起こしやすいことを認識して他の病態の治療を考える必要があります。
問題は、オスラー病の患者さんのほぼ全員が、
鼻出血で悩んでおられます。さらに消化管出血も合併している患者さんもいます。
このような状況下で、上記の抗血栓療薬が安全に投与できるか、鼻出血を含め、出血性の合併症はどうなるかが問題です。
投薬する医師側も出血性の合併症を恐れ、投与を躊躇することがあります。

[2].結論的には、注意は必要ですが、必要な抗血栓療薬は、その適応通りオスラー病の患者さんにも投与が必要です [3].つまり、心房細動があれば、抗凝固薬をきちんと飲む必要があります。
これら抗血栓療法の服用によって、多少の鼻出血の悪化は、認められるのですが、まったく投与ができないような状況になることは少ないとされています。
また、
ワルファリンを出血の合併症が少ないNOACに変えたりする工夫が必要な場合もあります。

肺動静脈瘻からの塞栓症予防にワルファリンによる内科治療がありますが、肺動静脈瘻の治療の基本は
塞栓術です。
カテーテル治療が可能な多くの場合は、ワルファリンよりも塞栓術が、当然優先されます。
塞栓術により、治療をしたその日からワルファリンの投与が不要になることも珍しくはありません。


参考文献
1. Shovlin CL, Sulaiman NL, Govani FS, et al: Elevated factor VIII in hereditary hemorrhagic telangiectasia (HHT): association with venous thromboembolism. Thromb Haemost 98:1031-1039, 2007

2. Devlin HL, Hosman AE, Shovlin CL: Antiplatelet and anticoagulant agents in hereditary hemorrhagic telangiectasia. New Engl J Med 368(9): 876-878, 2013

3. Dittus C, Streiff M, Ansell J: Bleeding and clotting in hereditary hemorrhagic telangiectasia. World J Clin Cases 3:330-337, 2015

2015.10.19 
小宮山雅樹先生より教授頂きました
特定非営利活動法人日本オスラー病患者会

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